Home    Profile     Information     Gallery     Essay     Link


(2)喜びのビスケット           <<戻る   次へ>>




材料は、これにバターと小麦粉のみ。
左上の茶色のパウダーがシナモン、クローブ、
ナツメグのミックスです。





粉っぽさがなくなるまでこねこねします。




めん棒でのばして…




ハート型とフラワー型で抜いてみました




たくさん焼けました

ぽちぽちと食べて1か月分くらいありそう!

何、何?喜びのビスケット?

おいしいの、それ?

答えの前に、ヒルデガルトにとって「喜び」
という概念は、とても大切なんです。
そのお話を今日はしたいと思います。

ヒルデガルトがシスターであると同時に
女医さんでもあり、ナースでもあったことは
すでにお話ししました。

それも当時では、かなり腕利きの女医さん
だったわけです。
老若男女問わず、その命と健康を守り
救ってきました。

そんな彼女の残した書物には、大きな3つの
神学的書物のほかに、もうひとつ重要な本が
あります。

それが『被造物の種々の精妙なる本性の書』
という医学大辞典みたいな本です。

シスターである彼女が、なぜ医学書?

彼女の書いた医学書は、現代のホリスティック
(全体)医療のような趣きがあります。

つまり、人間を部分的に捉えるのではなく、
精神も心もからだも、そして人間が摂取する
食物や、人間をとりまく自然環境まで、…
すべてを関連あるものとして捉えていく。

そんな考え方に依っています。

ですから、彼女の書いた医学書は、そのすべて
が記述に取り込まれています。
人間だけでなく、この宇宙全体が記述の対象
なのです。

神の造られたすべてのもの(被造物)に
ついての本なので、医学書であると同時に
神の被造物の本性(自然にそなわっている
そのものの本質)を明かす本として、
神学的書物とも言えるわけなのです。

とはいえ、本に書かれた記述は、とても
具体的で、細かい項目に分かれていて、
すぐれた観察力と経験に裏打ちされていて、
現代においても役立つ記述がたくさん
あるということなのです。

そのなかに、「喜びのビスケット」の記述も
あります。

「喜びのビスケット」(ヒルデガルトは
「快活な気持ちになる…小さな団子」と
書いています。)は、万能な健康食のような
ものとして紹介されています。

それではそもそも、人はなぜ病気になるの
でしょうか?

ヒルデガルトによると、この宇宙万物は
4つの元素から成り立っています。

それは火、空気、水、土です。

細かいお話は、また別の機会にお話しするとして、その4つの元素のバランスが崩れると
人間の中に「黒色胆汁」と呼ばれるものが発生するというのです。

血液、体液、津液、細胞液…人間のからだは60~70%水分でできているといわれています。

その水分が変質し、黒色胆汁となって病気になっていくようなイメージは、
現代だからこそ、なおリアルな感じがします。

きっと12世紀の当時から、ヒルデガルトは原因不明の腫瘍などを目にする機会が
たくさんあったのではないでしょうか。

さて、その黒色胆汁が増えると、人間は疑念が湧き、希望を失い、病気になると
いうことなのです。

黒色胆汁=メランコリア(憂鬱)というイメージだそうです。

このメランコリア(憂鬱)の反対語を成すのが、
人間を救いに導く自然の生命である緑したたる若々しさ(Viriditas)だというのです。

Viriditasに充たされると、人間には希望が宿り、魂が喜びに包まれ、満たされます。

まさに、このように魂が充足していること、
それが「喜び」という言葉の意味するところではないでしょうか?

魂が満ち足りてあることこそが健康であり、
そのような健康をもたらしてくれる食べ物が、喜びの食べ物。

そんな食べ物の代表格として記述されているのが、「喜びのビスケット」なのです。

ちなみに「喜びのビスケット」という名前はフランス人料理家の
ジャニー・フルニエ=ロッセさんが名付けたもの。

12世紀のヒルデガルトたちが食べていたと思われるレシピを、
現代風にアレンジして今日によみがえらせてくれた人です。

フルニエ=ロッセさんの本には真似したいお料理のレシピがたくさん!

まずは、一番の基本となる「喜びのビスケット」にチャレンジ。

なぜ一番の基本になるかというと、ヒルデガルトにとって小麦、
とくにスペルト小麦という古代小麦は、
あらゆる栄養素を含んだ完全食品だからなのです。
(実際に、現代の栄養学的にも、玄米に並んでスペルト小麦は完全食品です。)

スペルト小麦はいっさいの品種改良の行われていない、
9000年以上前から栽培されている古代穀物。
(詳しくは、西尾製粉株式会社のWEBサイト『スペルト小麦の教科書』)

一体どんな感触で、どんな味がするんだろう…?

あまりに興味をそそられて、フルニエ=ロッセさんのレシピどおりに、
スペルト小麦を使って「喜びのビスケット」を作ってみました!

まずスペルト小麦の見た目は、普通の小麦粉と変わりません。
粒子の細かさも、色も、とてもきれいでやわらかです。

「喜びのビスケット」のポイントは、スペルト小麦を使用することと、
スパイスを加えることにあります。

加えるスパイスは、シナモン、クローブ、ナツメグの3種。
作る前から、とても良い香りが台所中に満ちています。

このハーブのスパイスは、黒色胆汁を減らす役割をするそうです。

ハーブといえば中世ヨーロッパの修道院。
病院の役割をしていた修道院では、たくさんハーブを栽培していて、
その調合やら効き目やらを工夫し、研究していました。

今でいう調剤薬局みたいな役割も果たしていたのです。

修道院で研究されていたハーブの文化が、現代のアロマテラピーやフィトセラピーに
そのまま継承されています。

私自身はハーブ初心者ですが、このようにお料理のスパイスやハーブティーから
日々摂り入れてみるといいかも知れません。

からだに良いということ以上に、おいしいですから…。

さて、「喜びのビスケット」です。

一生懸命、まぜて、こねて、のばして、くり抜いて…
焼きあがったときの感激。。

これが、12世紀ヨーロッパ修道院で、ヒルデガルトたちが食べていた食べ物かぁ…。
どんな味がするか興味津々。

さっそくパクッ。

う~ん、なんておいしいビスケット。

市販で売っているものより断然おいしい!
スパイスの香りが効いてて、ちょっと大人な感じのビスケットです。

スペルト小麦の食感も、とても食べやすいです。

さすが「喜びのビスケット」。
食べてしあわせな気持ちになります。

「おいしい」ってすばらしい!


私は生まれつき、成人するまで食べ物の好き嫌いが激しく、
好きなものといえば、ごはん、牛乳、じゃがいも、
いちごなどの果物…と限られたものだけでした。

それだけに現在は、食べ物のおいしさが身に沁みます。

「おいしい」って感じられることって、すばらしい。
その幸福感は、まさに「喜び」、魂の充足につながる気がします。

だから、「この食べ物は良い」とか「この食べ物は悪い」とか、
いろいろな健康法や健康食がありますが、、、

つきつめて言ってしまえば、節度を保ちながら
万遍なく「おいしい」と感じて食べることこそが、
一番からだが喜ぶのではないでしょうか。

何よりの健康法。
それは「おいしい」と感じて食べること、のような気がします。

だから食べることが大好き!という人はいいですよね。
食べることが好きな人に悪い人はいない気がします。(笑)

そんな、あんな、いろいろなことを思いながら「喜びのビスケット」を頬張ると
中世ヨーロッパにタイムトリップしたかのような気分が味わえるのでした。



参考文献
『聖ヒルデガルトの医学と自然学』井村宏次、聖ヒルデガルト研究会訳(ビイング・ネット・プレス)
『聖ヒルデガルトの病因と治療』臼田夜半訳(ポット出版)
『ビンゲンのヒルデガルト』H・シッペルゲス著(教文館)
『聖女ヒルデガルトと喜びのレシピ』ジャニー・フルニエ=ロッセ著(フレグランス・ジャーナル社)

参考WEBサイト
『スペルト小麦の教科書』西尾製粉株式会社



上へ戻る↑


copyright(c)Miki Takahashi All Rights Reserved